「――この森も、もう限界だな…」

「……」


枯れかけた気に背を預け座り、膝に乗せた小さな子どもを腕に抱く、明るい黄緑色をした紙の男が呟いた。



それは、昔から守番の存在していた森のこと――




   <<主なき森>>



「だああぁぁもおぉっ!!!」

突然、静かな森に上がった叫び声。
晴れた、キレイな葵空をした日、不思議に感じる程に静寂だった森で上げられた、仲間と旅をするライチュウ―ージンのものだった。

「ちっくしょう!!ここは一体どこなんだよ!!?」
「どこって 
森。
「そういうこと聞いてんじゃねぇ!!」
いつもの事だが騒がしいジンに溜め息を吐き、面倒だなぁと溢しながら答えるカルスに、怒鳴るジン。
が、それも別段普段と変わらないことなので、誰も気に止めない様子。
ただ、通常であれば、風蓮がジンを宥めるのだが、それよりも気に掛かる事があるようで、考え込む表情をしていた。


「…でもほんと、どの辺りなんだろう…」
それに、何でこんなにポケモンに会わないんだろう…



そう…、歩いても今までのようにポケモンに出会うことも、ジンの突然の大声に驚いた鳥ポケモン達が飛び出すこともなかったのだ。

枯れた木も目に付くし…この森で何かあったのかな、と心配そうに言う風蓮。

「今は森で頼りになるバージも居ないしね」
「そーだよっ!アイツが急に『一人で行動させてくれ』とか言いやがるから…!!」
カルスの言葉に頷き、それを許しちまうし!!とまたも騒ぎ出したジン。

カルスやジンの言う通り、ゴーストのジュールが仲間になってからは、風蓮、焔煉、カルス、ジン、ジュール、そしてバージの6人で行動をしてきた。
その為、森ではバージが道案内となり、逸れても草木の声を聞き探し出してくれていた。
そんな今、残りの2人はといえば、3人の傍ら、どこかへふらりと行こうとするジュールを、「また逸れんぞ」と焔煉が捕まえ注意していた。


「ちょっと様子がいつもと違っていたから、気になりはしたんだけど…」
バージが言い出すこと殆どないから…

ジンの言葉に風蓮も僅かに表情を曇らせる。その後ろから一つの影が近づいていることに、5人は気付いていなかった。





その頃、バージは一人、枯れかけた木々の間を歩いていた。
花も実もつけない木、ポケモンどころか、生き物の気配はほとんど感じない。
あるのは、今にも息絶えそうな程の草木のもの。



(枯れている…)


ちらりと見やった先の木。それは完全に力尽き、枯れていた。

バージにとって見慣れていたはずの森は、すっかり様変わりしていた。
それを目に映すにつれ、バージの瞳は暗い影の色に染まる感じがした。

目を閉じて浮かぶは、青々と茂った葉と多くのポケモンの姿。

 昔はあんなに

「賑やかだったのにな…」



ガサッ


目を閉じたまま思い描いた情景に、今との差を思い知らされ、思わずバージの口から悲しみの色を含んだ声音で言葉が零れ出る。
その直後だ。枯れ葉を踏み、葉を掻き分ける音が立った。
その音にはっとし、バージはばっと音のした方を向く。




「、お前は――…?」



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音のした場所には、1人の小さな男の子がきょとんとしたような表情でバージの方を見ていた。
が、その目には驚きの感情が微かに感じ取れる。
バージの方もいないと思っていたポケモン…しかも見るにフシギダネだろうかと考えるバージも、突然現れたフシギダネの子どもに驚く。
見た感じからして3、4才くらいだろうか…。深緑色をした髪と、紅い眼をした子どもだ。
だが、その子どもが発した言葉に、バージは更に困惑する。




「とーさん…?」



はっきりと、その子どもはバージを見て言ったのだ。





 * * * * * *





騒ぐジン達、木々の間を独り歩くバージと時を同じくして、またこの森で1人、こちらは慣れた足取りで足早に歩く人物がいた。
その人物は、探し物をするように辺りを頻繁に見渡し進む。その足取りが、ジン達5人の居る場所に近づいた所で止まる。
普段、風の音と、風がもたらす木の葉が擦れる音、その程度しか聞こえてこないはずのこの森に、声が聞こえてきたからだった。


(話し声? しかも複数…セタじゃねぇな…)


どうやら人物を捜している様だが、それは捜している人物とは違うようで、溜め息を吐きながら、煙草を取り出し銜える。

(ったくよ、セタのやつぁどこ行きやがった)


暫しの間、そこで思案した後、先ほどまで進んでいた方向とは違う、今しがた声が聞こえてきた方向に歩き出した。


ここ1、2年は、他人は誰一人としていない。
その為、どんな人物等か気になったのも有り、また”セタ”を見たかどうか訊ねる事と、
害があるかどうか確認する居も含め――



そう思いながら進んだ先、木々の間から見えた数人の人物。
手で小枝を分け出、なにやら騒ぎ出している5人に向かって声をかける。

「おい…アンタら、ちっせぇガキ見てねぇか?」
「…!」

五人はと言えば、突然向けられた声に驚き、一斉に声の方向を振り向く。
そこには、頭にバンダナを巻き、黄緑色の髪を逆立たせた、背の高い30代程の男が立っていた。



ポケモン…

そう、先ほどまで会話をしていたカルス達は、現れた人物、ポケモンを見てそう思う。



「えっ、、子どもですか…?」

その驚きの中、ポケモンの問いに反応を返したのは風蓮だ。
ああ、と応えてくる男に風蓮は困っていた事実も含め話す。




「子どもどころか、この森に入ってから貴方意外誰にも会っていないんですよ」


道に迷って、誰かに訊ねようとしてたんだけれど、会う以前に、誰かが居るような気配も無くて…
困っていたくらいなんです、と苦笑する風蓮。
内心、様子を窺いながら話を男は聞き、害を加えに来た奴等ではないと判断し、「そうか」と返す。
そして、こっそり気付かれないように溜め息を吐き、風蓮達を見、話す。

「ここは元々、人間が入って来れねぇように木々が動いていた場所だからな。今は外から来たポケモンにもかなり難なトコだぜ」
「木が動く、って…」
信じらんねぇ…と呟くジンに、はは と笑い「まぁ、昔の話だ」と言い、男は踵を返した。
「着いて来な。出口まで案内してやるよ」
「え?いいんですか?その…」
男の言葉に驚き、そして、子どもを捜しているんじゃあ…?と躊躇いがちに聞く。
確かにこのままだと、自分達ではこの森からは出ることは出来ない。バージを待つにしても、いつバージが戻ってくるかも分からないのだ。

「良いも何も、道が分かりそうな草タイプの奴がいねぇんだろ?なら迷ったままだぜ。
 何、ここはあのガキにとっちゃ庭みてぇなんもんだ。アンタ等が気にすることじゃねぇよ」
更にこう言われ歩き出されれは、風蓮は慌て男を追う。他の4人も自然と、だが納得できていない様子で歩きだす。
実際には、男は今すぐにでも子どもを捜し出したいのだが、このまま森から出られず野たれ死なれては余情が悪い。
幸か不幸か、この森は今や自分等のみ、突然この森から消える等は怒るまい、と捜し子を気に掛けつつも、森の外へと風蓮達を案内する。







「ルディックは、この森に随分詳しいけれど、ずっとここに居るんですか?」
「ああ、まぁな…」
森の出口へと導いてくれるポケモンといくらか話を交わし、互いに名を名乗り、ポケモンはルディックと言った。
風蓮はこうして話しながら森を歩いていた。話すと言っても、風蓮が時折訊ね、それに軽く返す程度のものなのだが。

「…俺から一つ、いいですか。今日、俺達と会う前に、他にポケモンを見てませんか?」
そんな中、今まで黙って歩いていたカルスがルディックに訊ねた。ルディックはちらりとカルスに視線をよこす。
「他ってーのは?」
「フシギバナ。今は別行動してる、俺達の仲間です。」
「…いや。見てねーな…」
「……」
「……そうですか」
ルディックはポケモンの種を聞き僅かに見開くが、何でもないように、その様子は変わることなく一歩先を歩いていた。
ルディックの返答に残念そうに言ったのはカルスではなく、風蓮だった。


それからルディックは、後方で話す彼等を気に留めることなく、昔を思い出していた。

それは、無二の親友だと言い合っていたフシギバナ――彼の名前はカータと言い、この森を守っていたポケモンだ。
その彼と結ばれた、深緑色がキレイな髪を持った、誰よりも温かかった彼女。彼女もまたフシギバナだった。
二人とはもう会う事は叶わないが、この森にはまだ山ほど彼等との思い出の場が残っている。
そして未だに…特に、今の捜し子である子ども――セタを遊ばせては思い出す、ここを出て行ったフシギソウ――



(バージ……)



今どこにいるのか、元気にしているのか…もしかしたら、もう二人の様に生きてはいないのだろうかと、何度も考えたくは無い方向に思考が進み、そこで打ち切ってきた。
その時、後方からその名を聞くことになり、驚きのあまり周囲が驚く程、振り返り声を上げる。


「――にしてもさぁ、バージのヤロウは一体ドコで何してんだよ!アイツが居りゃーこんなことには…」

「!、、オイ、今何つった!"バージ"とか言わなかったか!?」
「ぅわぁ、ああっ??」
バージの名前を出したジンからすれば、普段と変わらず、ちょっと不満を溢しただけだったのだが、前方を歩いていたルディックが急に振返り、声を上げ問い質されるとは思いもしなかったことで、驚き何を聞かれたのか一瞬理解することが出来なかった。
それどころか、胸倉を掴みかかられるかとも思う程の素早さで詰め寄られ、咄嗟に身を竦めてしまっていた。

「…言ったけど、」何だよ…とぼそぼそと言うジンに変わって、焔煉が問う。
「アンタ、バージを知ってんのか」
焔煉の声で気付いた様に、ルディックはジンから一歩離れてやり、そっと息を吐いた後、「お前等の知ってる奴と同じならな…」と力なく言う。
が、ルディックは彼等の仲間だと言われるバージが、自分が知るポケモンと同一だとどこかで確信していた。

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彼等の仲間のポケモンはフシギバナだと言っていた。自分が知るのはフシギソウだが、もう進化していても不思議ではない年齢…。
そんなことを思いながら、今すぐそのバージを探し出したい衝動を抑え、どういう事か話を聞かせて欲しいと言う風蓮を見、側にあった小さな岩に座り手を組んだ上に顔を伏せ、つい先ほど思い出していたばかりの昔の事を話し出した。





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去年からずっとかきたいと思ってたバージの話の始まりです!
と言っても、本当は漫画で描きたかったのですが、外で物を書く時間が取れて、家で絵を描く時間があまり取れないので小説に変更しました。(哀
でも絵は描きたかったので、挿絵付きです。重かったらスミマセン…^^;



2010.1.23
 (2010.2.13  追加修正