――友というものを知らなかった
―――仲間なんて邪魔なものだと思っていた
コイツに出逢うまで
己しか信じれるものはなかった・・・
<最初の友>
街から少し離れた所にある山の麓。そこに大きな建物があった。
そこは、ポケモンを強化するための訓練場のような場所だった。
その建物を覆い隠すかのように、碧く深く木々が鬱蒼と茂っている。
そこから少し離れ奥に入った所に開けている場所があった。草が全く生えていない岩場だ。樹は立っていても枯れて葉を付けてない。
焔煉はいつもそこで技を鍛えていた。
そして今も、巨大な岩に向かって一人で修行をしている。
「・・・ハァッ!!」
腕を伸ばして手を重ねるように組み、前方に炎を放つ。
・・・が、
ぽんっ
掌から火は出たものの、小さな火の玉と気の抜けた音が出ただけだった。
「・・・・・・っだぁっめだっ!!」
焔煉はその場にばたりと仰向けに寝転がり空を見上げた。
「っちっくしょうっ・・・・・・上手くいかねえ・・・」
そのまま暫く空を眺めていたが、一度深呼吸をしてもう一度練習をするために立ち上がった。
その時に、先ほどセットをしていたアラームが鳴った。
「ちっ、もう時間かよ・・・」
そのアラームはこれから行われる戦闘試合の開始時間が迫っていることを知らせている。
焔煉は仕方なくという風に戦闘場のある大きな建物の方へと歩き始めた。
* * * * * *
「それではこれより、風蓮対焔煉の戦闘試合を開始する!」
何人かの試合が終った後、焔煉の番になった。相手はピジョンの風蓮だ。
何度か見かけたことはあっても話をしたことは無い。そもそも、焔煉が誰かと話をすることが滅多に無かった。
「両者前へ!・・・・・・始めッ!」
審判が二人(匹)を見、開始の合図を出す。それとほぼ同時に焔煉は煙幕を出す。
煙幕で視界を遮ったところで、焔煉は音も無く素早く移動をした。
風蓮は直ぐに風起こしで煙幕を吹き飛ばす。そこを狙っていた焔煉はすかさず引っ掻く攻撃を繰り出した。
が、それはギリギリの所でかわされる。
火の粉で攻撃すれば風起こしで吹き消され、電光石火を仕掛けられれば飛びのき引っ掻くを繰り出す。
何度も繰り返し攻撃していたが、体力も限界に近い。それに、さっきくらった電光石火も効いていて立っているのも辛くなっていた。
焔煉は拳に力を込めて、出せる限りの力で火の粉を放った。
放つと同時に、風蓮も攻撃を仕掛けてきていた。さっきと同じ“電光石火”かと思っていたが違っていた。
それは――
「翼で撃つ!!」
「・・・なっ!?」
焔煉は避ける事も出来ず、風蓮の“翼で撃つ”攻撃が直撃してしまった。
「焔煉戦闘不能! 勝者、風蓮!」
* * * * * *
勝負の決着がついた後、焔煉は直ぐに気が付いたが、他のポケモンたちが次の試合を見るのに集中している間に気付かれないようにこっそりとそこを抜け出した。
向かった先は、試合前まで居た岩場。
そこに着くと、腕を頭の後ろで組んでその場に寝転んだ。
ゴツゴツした地面の上に寝転んでいるため背中は少し痛かったが、焔煉にはそれは特には気にならず、逆に今は冷たい感触が心地よかった。
目を瞑ってそのまま暫くそうしていると、翼の羽ばたく音が聞こえてきて近くに着地した気配を感じた。
先ほどの試合の疲れで目を閉じていたかったのだが、誰が来たのか確認をするべく目を開けようとした。
その時に、頭上から声が降りかかった。
「体力も回復させずにこんな所で寝るなんて、風邪をひきたいの?」
その声に驚いて目を開けると、目の前にさっきまで戦っていた風蓮が自分を見下ろしている姿が目に入った。
「お前・・・何しに来たんだよ」
焔煉は上体を起こし、風蓮を睨みつけながら言った。
それでも気にした感じはなく答えた。
「オレはお前じゃなくて風蓮だよ。それから、ここに来たのはコレ・・・」
言いながら取り出したのは、サイコソーダだった。
焔煉は取り出されたサイコソーダを見て目を見開いた。
「飲めば体力も回復するよ?」
風蓮は微笑み、そう言い焔煉にサイコソーダを勧めた。
その笑みは嫌味などは一欠片も感じられず、少し躊躇った後素直に受け取った。
ソーダを半分程飲んだ後、焔煉が口を開いた。
「・・・何でわざわざ、こんな所まで・・・・・・よく持って来る気になったな」
ふと思ったことを聞いてみる。
何せ、ここに来るのは焔煉ぐらいで他に来る者は殆どいない。
少し離れているとは言え、訓練場のある所は緑の生茂る山の中。草も生えていないこの岩山はそこから何キロも離れた所に位置していた。
訓練場は山の中にあるとはいえ、どのタイプにも練習しやすい環境をそこに設けていた。そのため、ほとんどのポケモンはそこで己の技を磨いている。
中には訓練場から出て練習をするポケモンもいるが。それは山に大きなダメージが加わらないタイプの技を練習する者たちだ。
焔煉のような炎タイプのポケモンたちは、訓練場か木が生茂っていない川の近くで練習をしている。
が、焔煉はそこではなく、離れた岩場で一人で練習をしていた。他の者達は、訓練場があるのにわざわざ何キロも離れた所に来ようとはしなかった。
訓練場やその近場であれば、他の者と力を試しあう事だってできる。
けれど、誰かといることに慣れていない焔煉には、集中しやすく誰にも気を使わずに遠慮なく訓練をすることが出来るからこの岩場の方が良いらしい。
「そうしたいと思ったからそうしただけだよ。試合終わった後治療も受けずにどこかに行くんだから、君は。
それに、空を飛んで来ればこの距離は大した事ないよ?」
風蓮が柔らかい笑みでそう答えると、焔煉はそうかよと少し不機嫌そうに言い、空になったソーダのビンを置き立ち上がった。
どうしたのかという顔で風蓮が見ている中、焔煉は風蓮から十分離れた所まで行き、立ち止まった所で右手に力を集中させて火の粉を出す。
それを見た風蓮は困ったように笑い言った。
「ソーダを飲んだからって直ぐに練習を始めなくても・・・」
それでも構わず焔煉は体を動かし既に覚えている技を繰り出す。準備運動のつもりで。
何を言っても聞かないだろうと風蓮は思い、それを何も言わずに見ていた。
少し経って、だいぶ体も温まり反応も良くなった所で、焔煉は試合が行われる前までしていたように腕を伸ばし手を交差させるように重ねた。
さっきまで見なかった体勢に風蓮は不思議に思ったが、そのまま黙って見守っていると焔煉の周りに炎が発生した。
その炎は重ねた手に集まり、焔煉はその技名を叫び炎を放った。
「火炎放射っ!!」
先ほどの小さな炎の玉とは全く異なり、すさまじい炎が前方へと放たれた。
その近くにたっていた枯れ木はあっという間に炎が燃え移り火に包まれた。
「で・・・出来た・・・・・・」
今まで散々練習をしてきた火炎放射。何度も何度もやっても上手くいかなかった。
それがようやく成功したのだ。
成功した喜びと一度に大きな力を放出し慣れない事に体の力が抜け、その場に座り込んだ。
風蓮は座り込んだ焔煉の傍まで駆け寄りしゃがんだ。
「大丈夫っ!?」
それに焔煉は短く「ああ」と返す。炎を放った方向を見つめたまま。
「凄いね、今の・・・
あんな威力の火炎放射、見たことが無いよ」
風蓮もその方に視線を向け、素直な感想を述べた。
そこには、堅い地面に一筋の焼けた跡がクッキリと残っていた。
風蓮達が居る訓練所はある程度そこで力をつけると、殆どの者は旅に出る。その為、今まで威力のある技を見ていても、やはり威力やスピードがいまいちというのが本音だ。
が、焔煉が放った火炎放射は初めて撃てたとは思えない威力と速度を持っていた。
けれど、その分問題があった。
「・・・だけど、コレじゃあ駄目だ・・・一回で精一杯だ・・・」
焔煉が悔しそうにうつ向いて言った。
そう、焔煉は今の一度だけの火炎放射を撃っただけで身体から力が抜けてしまったのだ。気が抜けてしまったというのも有るのだが。
悔しそうに顔をうつ向かせたままの焔煉に風は話を切り出した。
「・・・オレと訓練、してみない?」
・・・と、短刀直入に。
その言葉に驚いて伏せていた顔を上げ、風蓮の顔をまじまじと見た。
そんな焔煉に笑いかけながら続ける。
「一人でするのも良いけど、誰かと戦闘みたいに勝負することもあっても良いと思うけど?」
風蓮の言葉で固まったように止まっていたが、少し経つと力がふっと抜けたように焔煉の表情が緩み答えた。
「悪くないな…。じゃあ、宜しく頼むぜ」
其からというもの、二人はその岩場で勝負をし、互いの技を鍛え力を付けていった。
焔煉がヒトカゲからリザードに進化し、二人が訓練場で負けない位力を付けた頃、二人は旅をするためにそこを出た。
* * * * * *
「・・・・・・ッ!」
「焔煉っ」
顔と体の至るところに痛みが走り、呼ばれた声に目を開けると心配そうに顔を覗き込んでいる風蓮の顔があった。
「・・・・・・っ・・・ふう、れん・・・?」
名前を呼ぶが声がかすれていた。
体を起こそうとすると体に痛みが走り顔を顰める。
風蓮は慌てて、寝ていろと焔煉が起き上がるのを制したが、「水・・・」と言ったのを聞き取ると近くのテーブルの上に置いていた水を渡してやる。
焔煉がその水を飲むと、風蓮はまだ安静にしていろと言って焔煉をゆっくりベッドに寝かせた。
焔煉もそれに逆らう事無く大人しく横になった。
暫くの間沈黙が続いたが、それを焔煉が破る。
「・・・夢を見ていた・・・・・・俺とお前が出会った時の」
「あぁ、あの時の・・・。懐かしいな・・・」
風蓮もその時のことを思い浮かべたのか、表情が穏やかに緩む。
あの時の焔煉は、誰にも頼ろうとはせずずっと一人でいた。
風蓮と関わりを持つ前までは。
風蓮と共に訓練を初めてからは、焔煉も少しずつ他の人と関わるようになった。
そして、旅をして他の仲間が――友が――出来た。
焔煉は素直に思う。風蓮と出会えて良かったと。
あの時、闘って・・・共に訓練をして・・・旅に出て、良かったと。
再び訪れた沈黙を今度は風蓮が破った。
「なぁ、あの時・・・俺の誘いに乗ってくれたのって、どうして・・・?」
焔煉は驚いて目を見開き、その直後呆れたように溜め息をついた。
「どうしてって、なんだよ・・・。断って欲しかったのか?」
それに風蓮は慌てて否定をする。
「違うよっ!・・・まさか、応えてくれるなんて思ってなかったからさ。・・・ただ、驚いただけ。今まで君は誰とも関わろうとしなかったから・・・」
焔煉はその言葉で気が付いたかのように、ああ・・・と呟いた。
「なんとなく、な・・・。コイツとだったら、一緒に居てもいいかもって思ったんだよ。試合のときにコイツとは何度も戦っても悪くないかもしれないってな。」
ただ、それだけだと言って口を閉ざした焔煉に、風蓮は君らしいね・・・と苦笑した。
三度目の沈黙が訪れようとした時、コンコンとノックする音が聞こえドアが開いた。
「風蓮、焔煉の様子はどう?」
声と共に姿を現したのは、共に旅をしているカルスだった。
カルスは起きている焔煉に気付き、話しかけた。
「焔煉、大丈夫?食事できそう?
消化のいい物を作ったけど」
「悪ぃな、気使わせて。食うよ、腹は減ってるし」
にっと笑ってやると、じゃ、今から持ってくるよと微笑み返してカルスは部屋を出て行った。
カルスが出て行った後、他の奴等も焔煉の様子を見にやってきていた。
反発や喧嘩やらをしたりしても、はやり仲間。こうやって、様子を見に顔を出す。
こういう時、焔煉はコイツ等に出会えて良かったと心の底から思う。
そして、風蓮に会えて、誘って貰った事を――
<−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−>
先代の日記に載せていたものです。なので、見たことがある人も居るかと思われます。
焔煉と風蓮が出会った時の話でした。
ちょっとこの特軍ことを・・・。
この軍はちょっと特殊でして、トレーナーに属さないポケモンとなってます。(だから、特軍としてるんです。
けど、他の所との関わりもあります、一応。(サファイア、ファイアレッドと連携していることになってます。
連携話も書きたいんですけどね、いつになることやら・・・。
2006.6.3
2007.1.2 修正
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